KOBE Global Startup Gateway 第1期インタビュー

FITTY代表取締役社長 本間 佑史子さん

FITTY本間さんとマイクロソフト砂金さん
2015年に行われたKOBE Global Startup Gateway 第1期で採択された「FITTY」代表の本間佑史子さんと、メンターをつとめた日本マイクロソフト株式会社の砂金信一郎さんに、スタートアップコンテスト「KOBE Global Startup Gateway(以外KGSG) 」と、「KOBE STARTUP OFFICE」でのアクセラレーションプログラムについて語っていただきました。
本間さんは2009年に国内下着メーカーに新卒にて入社後、EC業務の運用責任者を4年半担当し、女性下着ECの難しさを肌で感じてきた経験をもとに、下着のオンラインフィッティングサービス「FITTY」を2015年にリリース。
今年3月には事業を独立法人化されました。
https://fitty.jp/
聞き手 まず、FITTYの立ち上げからKGSGへ参加するきっかけはどのようなものだったかお聞きしてよろしいですか?
本間 2015年の夏頃に「FITTY」β版をリリースするまでは、開発にフォーカスするフェーズでしたが、事業フェーズが進んでいくにつれ、より多くのお客様に使ってもらうためにはサービスだけのことを考えるのではなく、資金調達やネットワーキングもしっかり学ばないといけないなと気づいたのがきっかけでした。そういった経緯から、開発フェーズが一段落した秋頃から、各種ピッチコンテストへのエントリーを始めました。
そうすると途端に外部のベンチャー界隈の人たちからアドバイスを頂ける機会が増え、資金調達や広報についてなど、自分はわからないことが実はたくさんあるなと気付いたんです。
スタートアップの序盤は開発のことしか見えていなかった自分が、その後の外部の資金・ネットワーキングについて考えたり、ベンチャーが大企業にサービスを売っていくことを考えた際に、アクセラレーションや外部の出資などを真剣に考えるようになりました。
そういうベストなタイミングで昨年のKGSGを通じて神戸市の皆さんと出会えたと思います。
聞き手 KGSG第1次選考では10チームのファイナリストが選出され、最終5チームに残るためのメンタリングが行われました。 ファイナルピッチまでの1ヶ月でどのようなメンタリングを行われたのでしょうか?
砂金 誰のために話すのか、を常に意識することをアドバイスしました。例えば、ピッチについて言えば、想いの部分で人を巻き込むイベント向けのオープンなプレゼンピッチと、投資家の方々へ向けて財務状況などを詳しく話すべきピッチはターゲットカスタマーが違うので、当然違う話し方をしなければいけない。
とにかく元気よく1位になれば大丈夫というプレゼンと、ビジネスとしての道筋を立てるプレゼンは違う。ただ、初期のスタートアップの皆さんにとっては区別がつきにくいかもしれないですね。
本間 男性はそもそもブラジャーをつけたことがないので、データや実際の女性の声を集めたりと、女性下着市場についてわかりやすい資料になるよう心掛けました。
「下着なんてみんな痛いとか言って無いよ?」と頭ごなしにされてしまうと、うちのサービスはあんまり刺さらないので、「下着は靴と同じなんです」という表現を入れたり、市場規模の大きさをわかりやすく、課題を明確にすることに時間を割きました。
また、アルゴリズムにまつわる説明ボリュームをギュッと圧縮したり、こんな風に使うサービスだと一目でわかるようなプロトタイプのデモを見せたりなど。このあたりは、かなりアドバイスを頂いた部分です。

KOBE STARTUP OFFICEでのメンタリング

聞き手 KGSGで採択された後のKOBE STARTUP OFFICEでのアクセラレーションプログラムで、資金調達の話を始め各業界の動向を知ることができる専門家からのセミナーが開催されましたが、ここでは砂金さんが「FITTY」のメンターを担当されました。
本間 今年1月にアクセラレーションプログラムでは、私たちは今、資金調達のフェーズにいるのでその部分に一番強い砂金さんにメンターを担当していただきました。
それぞれのスタートアップのフェーズに合わせどういった人がメンターになることで、事業がストレッチするかを把握しアレンジしてくれるのが、このKGSGのメリットとして上げられるかなと思います。
砂金 メンターの役割は、何か困りごとがあったときにアドバイスをするのはもちろん、共に動くこと。
私は「FITTY」へはコネクション面での協力が大きいかもしれません。 また全体で見れば他にもメンターの先生方もいらっしゃるので、そもそも今後の経営戦略・グローバル戦略を考えるときに「FITTY」はこれでいいのか?という懸案は、たとえば西本先生にご相談させてもらうほうがいいかもしれませんね、といったアドバイスもします。
また、「信頼感」が必要な際は紹介した先へも一緒に行く。
“Microsoftの砂金さんが紹介してくれている人ならば間違いない”という紹介相手からの信頼を確実にするのもメンターの仕事です。
本間 その部分、本当にお力添えを頂きました。
そして常にそこに追いつかねばと思っていたので、資料が足りないと思ったら徹夜しても補強しました。何パターンも筋書きを用意したり、流れや伝えたい事を精査したり、そもそも“下着のフィッティングって必要なんだっけ”という部分までも考える機会を持てたことで、様々なことがクリアになっていきました。このアクセラレーションプログラムの3ヶ月間ですごく資料のレベルは上がったと感じています。
砂金 自分たちの周りに、上手く頼りにできる人たちがどれだけいるかが、スタートアップにとっては大事なのだろうと思います。
「何かあった際に聞いてくれれば答えるよ」と言ってくれる存在がいるということ、ですね。
そういう意味で、アクセラレーションプログラムの期間中、頼れるべきところはもっともっと頼ってよいと思います。
本間 メンターのみなさんはバラエティに富んでいて、選出段階で10社から5社が採択されるピッチコンテストに関しては別のメンターさんが担当してくれていました。
もちろんいろんな意見が分かれて出てくるんですけど、「そういう考え方もあるんだ」と触れられることは、私たちのような立場にとってはすごく勉強になるんですよね。
「なるほど、こういう風に見られることもあるんだ」と。
聞き手 KOBE STARTUP OFFICEでのプログラムが始まると他の4チームとの交流も生まれたとお聞きしていますが、どのような雰囲気だったのでしょうか?
砂金 アクセラレーションプログラムではメンターとの関係以上に、同期同士の影響の与え合い方がとても重要ですね。
“わからないから教えてほしい”ということだけでなく「あのチームがすごくがんばっているから、自分たちも!」というモチベーション。そういった励まし合いや見栄の張り合いは非常に大事だと思いますね。
本間 アクセラレーションプログラムを受けていた2016年1月〜は私自身もすごく成長ができたと感じています。砂金さんをはじめとするトップ層の方々をご紹介頂いたり、皆さんからこの場では言い切れないほどのフィードバックを頂いたことで、本当に様々なことがクリアになっていきました。
砂金 ちなみに「FITTY」はこの3月で事業として独立させて会社を設立したんですよね。その決断はどのタイミングでしたのですか?
本間 今年の1月末〜2月頃です。それより以前の資金調達の手応えのようなものがまだ見えないうちは、私の会社の別事業の利益を「FITTY」に投下していくというビジネスモデルでこの先1〜2年はやっていこうと思っていました。
ただ、アクセラレーションプログラムを通して投資家の方ともお話していくうちに、好ましい反応を頂けるようになってきました。ならば2016年にある程度の資金を調達し、ここで一気に勝負をしたほうが、スタッフにとってもお客様にとっても善だ、と思うようになりました。
様々な方と会う中で経営者の知見やビジネスをストレッチさせる、会社をストレッチさせるという方向への意識が広がったことが大きく影響していると思います。
これまで私はずっと、メンターがほしかった。ずっとすべてを自分で決めてきたけど、最善の選択が出来ているのかという疑問や、自分の知っている範囲のみでダイナミックに攻められていないのではないか、自分が知らないだけでより良い選択があるのではないか、と思っていたんです。
そういう意味では、自分たちのあり方自体をストレッチさせることができ、人間的にもとても成長できました。今回のアクセラレーションプログラムはちょうど私自身の事業のタイミングとも合っていたし、この段階で自分の先生ともいえる方々と会うことができたのは大変良かったです。

神戸市がアクセラレーションプログラムを実施することの意味

聞き手 神戸市は全国に先駆けて自治体としてアクセラレーションプログラムを実施しました。自治体がアクセラレーションプログラムを実施し、スタートアップを育てていくことの意味とは?
砂金 今後の方向性としては、プログラム後も神戸市を頼ってもらいたいスタートアップであることや、自治体としてもここと組んだら特徴的なサポートができそうなもの、という風になっていくのではないでしょうか。
新しいビジネスを生み出せる場所が神戸であるという文脈を育てていく。みんなでアクセラレーションプログラムに参加したスタートアップを育て、羽ばたかせていくという土壌を神戸につくるということですよね。これは今後の日本において非常に強い自治体になる、ということでもあるはずです。
聞き手 FITTYはKGSG以外にも大きなピッチコンテストにいくつか出場されたそうですが、神戸市のアクセラレーションプログラムを実際に受けられて、いかがですか?
本間 今回参加させて頂き、神戸市は本当に新しいビジネスが生まれるためのエコシステムを作るという目標に向かって動いていらっしゃるのだなと、ひしひしと感じました。
砂金 神戸市はグロースハックマインドがある自治体なので、そういった部分に私もとても期待しています。私自身このプログラムを創り上げる一端を担えていることはすごく名誉なことです。その観点でできることは貢献したいという想いがありますね。
このプログラムが今後続くかどうかは、一期生のみなさんがどう頑張るかにかかっていると思います。何年か後に「あのプログラムがあったからこそ今の私達があります」と言ってくれる人が現れるとよいですよね。
あとは余談的になるかもしれませんが、“神戸市で採択されました”というのが、意外と今後に活かせるのではないかとも思いますよね。「KOBE STARTUP OFFICE」が始まるとき、見開きカラーで、神戸新聞で特集記事もありましたね。
本間 自分たちのビジネスをコンシューマー向けに説明する際のインパクトとして、行政のサポートを受けているということは、未知のサービスを利用する障壁を低くして頂けていると感じますね。
例えば、メーカーさんに「神戸市の支援プログラムで採択されています」と言う一言がどれだけの信頼感につながるかは計り知れません。NHKに出ました、とか神戸新聞で出ました、と説明できるのはすごくわかりやすい!
母から『ゆみちゃんが新聞に載ってる!』と言われたりもして、これはすごいと思いました(笑)。そういったニュースは自社メディアに入れさせてもらうことでアクセスがすごく増えますし、PRの意味では特に安心感を手に入れることができるとも感じましたね。
また、東京以外の地域の方はこの神戸のプログラムに参加するととてもよいと思います。理由としては2つあります。
1つ目は、地方のアクセラレーションプログラムはまだ少ないなかで、神戸のこのプログラムは東京でもみなさんが知っていらっしゃるようなメンターの方や評価者をアレンジしてくださるのでクオリティがとても高い。
2つ目は、テック系ではなく市場がニッチであったり対象が割と限定的なサービスの人たちが地方を拠点に選ぶのは戦略として賢いと思うからです。私たち「FITTY」もあまりテック系でなかったからこそそう思いますし、この3ヶ月間でこの機会がなかったら会えない人にたくさん会えたので。
砂金 スタートアップはまだまだ変に自分たちのチームやサービスを過小評価している人が多いかもしれない。特に日本のエンジニア出身のスタートアップはすごいことをやっているのに『全然お金になる気がしなくて…』と言うような人も多い。そういった方々はぜひアクセラレーションプログラムに入って、そのあたりを鍛えてほしいですね。
本間 アクセラレーションの3ヶ月間、本当に良くして頂いたので、後のプログラムに対して頑張れることがあればやりたいなと思っています。
ただ、まず私は自分自身のビジネスが成功することによって、それを支援してくださっている神戸市さんに1つの成功事例が残せるんじゃないかなと思いますし、少し先のステージに進んでいる分、早く良いサービスとして世の中に認知を取っていくことこそが、自分たちのためでもありますし、お客さんや育ててくれた方々のためにもなりますし。
アクセラレーションプログラムで支援してくださった皆さまのためにも頑張っていきたいと思います。それが例えばKGSG、ひいては神戸市さんとしてのひとつの成果になるのであれば、ぜひうちのサービスのことを紹介してもらえたらなと思っています。
本間 佑史子
FITTY 代表取締役
神戸市外国語大学を卒業後、トリンプインターナショナル・ジャパン株式会社に2009年に入社。直営店ブランドであるAMO’S STYLEの公式サイト運営責任者、WEB限定商品の開発リーダーを勤める。その後、2013年6月にスカラインターナショナル株式会社を設立。ブラサイズを間違っている女性、また悩みを抱えている女性の多さを解決するため、2015年に商品データとユーザーの体をオンライン上で照合することができる「下着のオンラインフィッティングサービスFITTY」をリリース。神戸市アクセラレーションプログラムに採択される。

砂金信一郎
日本マイクロソフト株式会社 Microsoft Ventures Tokyo 代表
マイクロソフトでスタートアップ支援を積極的に推進。インフラ技術面だけでなくビジネス面での支援も柔軟に担当。東工大卒業後日本オラクル在籍時にドットコムバブルを経験し、ローランド・ベルガーで戦略コンサルタントを、マザーズに上場したリアルコムで製品マーケティング責任者を担当した後現職。@shin135